「 心 燃 」

 


 「 心 燃 」 1・1 
知恩院の除夜の鐘がゆく年くる年の響き、哀切をもたらしていた。いつもはNHKのTⅤで見ているのに、今年は京都まで導かれるように来ていた。那覇から京都までは遠い、島に帰らずにここへ来た。
クリスマスの日に、いきなり別れ話を告げられた。三十の節目の年で、来年はと思っていたのに、それはあんまりだった。傷心の旅が本音だった。島の両親には、出張と嘘をついてしまった。結婚の報告に帰るつもりが、別れ話に打ちひしがれた。自分の不幸せを呪ってみたくもなった。あの日の帰り道、いきなり老人に声を掛けられた。「お嬢さん、顔が泣いていますよ。旅に出たらいい、北東がイイ!京都がイイネ!」藁をも縋りたい思いで、予言に沿って、凍えそうな冬の京へ来てみた。一〇八の煩悩を消し去るという除夜の鐘が打ち鳴らされる度に、耳から心へ、そして、魂に響いて来るようだった。その振動は、まるで心動となって六十兆の細胞に染み入って来た。ゴーンが「シン、ネーン(心燃)」と聞こえた。